「経済学分野の参照基準」素案への意見書

日本議「経済分野参照基準検討分科」の「大教育分野別質保証」ため経済分野参照基準素案への意見書

 日本学術会議「経済学分野の参照基準検討分科会」において作成中の「大学教育の分野別質保証」のための「経済学分野の参照基準」素案につきまして、本学会幹事会としての意見を述べさせていただきます。

 検討中の素案におきましては、経済学は「ミクロ経済学」と「マクロ経済学」を基本とし、それに「統計学」を加えたものを基礎科目、またその後の科目は基礎科目の応用分野であるとする体系として示されています。これは今日いわゆる「主流派経済学」とされる新古典派経済学を参照基準とし、それを相対化する批判経済学を周辺化もしくは排除しかねないという危惧を持たざるをえません。

 80年代以降の新しいアプローチであるフェミニスト経済学は、新古典派経済学が前提とする合理的選択を行うと仮定される人間観そのものが、すでにジェンダーバイアスを含んでいるという根本的な批判の視点から、伝統的経済学を批判、再構築しようとする試みであり、従来経済学が無視・等閑視してきた、その多くが女性によって担われている市場外経済活動に焦点を当て、ケア・エコノミー、ジェンダー統計、ジェンダー予算など、政治、社会政策はもちろん、当然のように単位とみなされてきた世帯の中での労働と分配の観点からの総合的経済分析を模索し、従来経済学が見ることのなかった領域を対象としてきました。

 日本フェミニスト経済学会は、国際フェミニスト経済学会(International Association For Feminist Economics: IAFFE)の成立と発展の過程で立ち上げられました。IAFFEは1990年のアメリカ経済学会における1セッション、「フェミニズムは経済学に居場所をみつけることができるか?」と名づけられた部会でのチャレンジングな議論から端を発し、1992年に正式に設立され、今日の経済・社会システムの構造的変化、市場自由化政策や構造調整政策が女性に及ぼす影響、現代の貧困・環境・貿易問題、マクロ経済政策のジェンダー諸相やグローバリゼーション、労働とヒューマン・ライツなどのテーマを取り上げ、さらに福祉レジームとケアの経済学、経済学方法論の基本的な再検討、そして経済学教育のあり方までも含めて、ジェンダーとその他の差異に関する多様な側面からの議論を展開しています。

 大学での経済学分野の教育には、このような国際的視野に立った新たな視点による、現時点での「主流派」とされる経済学を相対化しうる多面的な幅広い視点の獲得が不可欠であり、批判という学問における根本的な力の養成は、それなくしては困難であると考えます。

 日本フェミニスト経済学会幹事会は「経済学分野の参照基準」素案が経済学の多様性、および複合性の重要性を十分に踏まえ、批判の学としての可能性を切り捨てることのないものとして再検討されることを願っています。

2013年12月21日
日本フェミニスト経済学会2012-2013年度幹事会