「日本フェミニスト経済学会」設立趣意書
1 日本における経済学とフェミニズム・ジェンダー研究の現状
1970年代以降、社会科学や人文科学の諸領域では、フェミニズム・ジェンダー視点からの研究が大きな発展をみせてきました。一方、経済学は、そのような動きとは無縁な、いわば無風状態を堅持しているかのようでした。しかし、ここ数十年の経済や社会の激動は、経済学にも大きなインパクトを与えており、経済学が取り扱う課題や方法、また領域やその内容について、フェミニズム・ジェンダー視点からの新しい把握と根本的な問い直しが要請されています。すでに法律学の分野ではジェンダー法学会が設立されています。
経済学の領域においても、新しい動きがなかったわけではありません。社会政策学会ではジェンダー部会が着実な実績を積み重ねており、経済理論学会でも近年ジェンダーのセッションが設けら れています。また、日本経済学会の昨年の大会には、女性労働についての独立した部会が登場し注目を呼びました。しかし、経済学においてはフェミニズム・ジェンダー視点からの研究は限られており、新たな展開が求められています。
2 国際的なネットワークの形成
このような状況は必ずしも日本だけのものではありませんでしたが、1990年代に入って、そうした状況を打ち破る新しい動きが起こります。その象徴として「国際フェミニスト経済学会」(International Association For Feminist Economics: IAFFE)の成立と発展をあげることができます。これは、1990年のアメリカ経済学会における1セッション、「フェミニズムは経済学に居場所をみつけることができるか?」と名づけられた部会でのチャレンジングな議論から端を発し、1992年に正式に設立されました。最近では、今日の経済・社会システムの構造的変化、市場自由化政策や構造調整政策が女性に及ぼす影響、現代の貧困・環境・貿易問題、さらにマクロ経済政策のジェンダー諸相やグローバリゼーション、労働とヒューマン・ライツなどのテーマが取り上げられています。さらに福祉レジームとケアの経済学、経済学方法論の基本的な再検討、そして経済学教育のあり方までも含めて、ジェンダーとその他の差異に関する多様な側面からの議論が行われて います。現在、IAFFEの会員は600名近くにのぼり、その半分はアメリカ以外の地域からの、国の数でみれば約50カ国の人たちによって構成されています。
3 「日本フェミニスト経済学会」の目的と課題
このような国際的な動向を踏まえつつ、私たちは、経済学や経済諸問題に関する、フェミニズム・ジェンダー視点からの探求を前進させるために集い、そのための継続的な活動への参加を広く呼びかけようと決意するに至りました。そのために、研究者、政策立案者、さらに活動家たちの幅広い経験と活動の交流を進めること、さらに、経済学以外の諸分野における成果から学びつつ、専門領域を超えて学際的に、課題の究明に取り組むことを目指しています。まさしくこのような私たちの問題意識はIAFFEの活動の目的とも重なり合うものです。
現時点では先述の国際的な動向について、日本では情報の共有があまりにもなされていません。IAFFEの国際会議への参加者もごく少数にとどまっています。しかし、今後、日本において、経済 学におけるフェミニズム・ジェンダー研究を進め、さらにフェミニスト経済学研究を独自の領域として発展させていくためには、IAFFEをはじめとする国際的ネットワークとの相互交流を深め、情報を共有することが不可欠であり、また、そこでの研究動向を詳しく検討していくことがきわめて重要な課題になってきています。
そこで私たちは、フェミニスト経済学に関する問題意識や関心、方法論や研究課題について議論し、深め合い、拡げ、そしてそれらを相互に共有し合える研究と交流の場として、「日本フェミニスト経済学会」を設立したいと考えます。
具体的な課題としては、(1) IAFFEなどの国際的な研究動向の把握と共有、(2) 日本における交流と研究の蓄積、(3) IAFFE日本支部および学会設立へ向けての検討、(4) 研究成果の出版活動、を念頭においています。当面は、(1)、(2)の二つの課題に重点的に取り組むことととし、(a) 情報の共有と交流の拡大に焦点をおいたシンポジウムおよび研究会の開催、(b) ニュースレターの発行を行っていきたいと考えています。これらの活動を踏まえて、長期的には(3)、(4)の課題にも取り組みます。
以上の趣旨についてご理解をいただき、フォーラムへの積極的なご参加をお願い致します。