日本フェミニスト経済学会 2016年度大会

  • 日 時: 2016年7月10日(日曜)10:00~17:30
    会 場: 龍谷大学(深草キャンパス 和顔館)
    参加費:会員 2000円, 非会員 3000円(学生は2000円)

    共通論題テーマ「新自由主義とNPO」

    趣旨説明: 共通論題座長 松川誠一(東京学芸大学)

    新自由主義と呼ばれる社会・経済政策の流れは、1980年代以降、先進諸国の社会生活に多大な影響を与えてきた。それは、実際のところ、デヴィッド・ハーヴェイが言うようにシステマティックで統一性のある理論に基づいたものではなく資本の権力(再)奪取に向けた雑多な政治的プロジェクトの総称にすぎないとしても、戦後のケインズ主義的福祉国家体制を相当程度掘り崩すことに成功してきた。新自由主義的な政権が好んで用いる手法は、公的規制の緩和・撤廃や公共事業体の民営化といった「市場原理の導入」である。人びとは私的/個的な意思決定主体として「選択の自由」を強調され、その結果としての「自己責任」を課されるようになる。

    新自由主義は福祉国家が担ってきた社会的サービスの供給を単に商品化/市場化しようとしただけではない。市場化が困難である(すなわち、営利団体が利潤を生み出すことが難しい)領域とみるや、そこでは民営化による政府からの選択的で恣意的な切り離しと受け皿としての非営利団体(NPO)の導入という政策手法に訴えた点にも注目しなければならない。そこでは、サービスの最終受益者と提供者の間には貨幣的関係はないものの、委託する地方自治体と受託組織との間には疑似雇用的な関係が発生している。
    日本では、2000年に開始された公的介護保険制度や2003年に導入された指定管理者制度のもとで地方自治体が担ってきた様々な社会サービスの供給事業が民間委託されるようになった。こうした制度のなかで活動しているNPOは多い。また、サービス生産を行うタイプのNPOは、その働き方の特徴から女性が社会参画し活動する場としても位置づけられてきた。戦後近代家族が生み出した「名前のない問題」(フリーダン)に対する回答の1つが、NPOであったとさえ言えよう。しかし、新自由主義はそうした環境を準備し女性の「主体化」を促進する一方で、主体化された女性の労働力を民営化された社会サービス生産のために回収・再動員したと言うことはできないだろうか。

    戦後日本社会で確立された生産労働と再生産労働をめぐるジェンダー分業が、新自由主義的政策によってその境界線を引き直されるとき、フェミニズムからのその評価はアンビヴァレントなものになろう。第2波フェミニズムを生み出したのは、ケインズ主義的福祉国家体制とそれが育み、かつ、それに依拠した戦後近代家族であった。新自由主義には、戦後ジェンダー秩序を揺さぶりジェンダー平等に向かう(ように見える)動きという側面がある。

    2016年度大会の共通論題では、特にNPOという組織・運動体が新自由主義的な政策とどのように向き合ってきているのかという点に注目し、両者が織りなしてきた諸関係を今一度、フェミニスト視角から吟味する機会を提供したいと考える。

    【第1報告】 「女性とNPO活動――新自由主義における「両義性」を超えて」
    渋谷 典子(特定非営利法人参画プラネット)
    NPOと自治体との「協働」のもと、指定管理者事業や委託事業といった枠組みで「公共サービス提供者」として公務を担うNPO活動者が増加しつつある。一方、「協働」という美名のもと、行政からNPOへの安価な下請け化の問題が浮き彫りになっている。本報告では、「市民参加の論理」と「行財政改革の論理」の渦中でNPO法人参画プラネットが取り組んだ名古屋市男女平等参画推進センター「つながれっとNAGOYA」指定管理者事業の実践をふまえ、女性たちが向き合った新自由主義における「両義性」を明らかにする。そのうえで、フェミニズムの視点から今後のNPO活動のあり方について提案を試みたい。

    【第2報告】 「対貧困政策の新自由主義的再編とNPO――再生産領域における「自立支援」の諸相」
    堅田 香緒里(法政大学)
    1980年代以降、現代福祉国家の新自由主義的再編が進められてきた。本報告では、対貧困政策における新自由主義的再編が「自立支援」をキーワードに進行していることと、そうした支援の担い手としてNPOへの期待が高まっていることの含意に光を当てる。そこでは、貧者への「再分配」(経済給付)が切り縮められる一方で、経済給付を伴わない生全般・再生産領域における「承認」の擬制装置(自立支援)の氾濫が起きていることを指摘したい。そのうえで、今日のネオリベラルな貧者の統治様式に対抗しうる「再分配」と「承認」の在り様についても模索したい。

    【第3報告】「アントレプレナー化する女性とNPO――承認の政治をめぐるせめぎあい」
    渋谷 望(日本女子大学)
    近年のネオリベラリズム統治の特徴は、当事者の承認欲求を媒介に、主体を「アントレプレナー」化し、「社会参加」を調達しようとすることにあるのではないだろうか。その直接的なターゲットは、貧困層、若者、女性である。本報告は、この統治様式とNPOの親和性を、そしてそれが社会運動、とりわけフェミニズムにたいしてもつバックラッシュ的性格を指摘したい。また同時にオルタナティブな承認の政治の可能性について検討したい。

    【討論者】 藤原千沙(法政大学)

    大会スケジュール

    自由論題 第1会場(会場:和顔館201教室)

    10:00~11:00 第1報告
    林亜美(お茶の水女子大学)
    「女性への職業訓練に関する一考察――求職者支援訓練の女性受講者に着目して」

    11:00~12:00 第2報告
    織田暁子(仁愛大学)「産業における女性就業者の割合と賃金」 

    自由論題 第2会場(会場:和顔館202教室)

    A会場10:00~11:00 第3報告
    古沢希代子(東京女子大学)
    「東ティモールの水利システム改革とジェンダー~インフラ事業の民主化を目指して~」

    【共通論題 会場:和顔館2階202教室】 13:00~16:45

    テーマ「新自由主義とNPO」

    13:00~13:10 趣旨説明 座長・司会 松川誠一(東京学芸大学)
    13:10~14:55 報告

        •  渋谷典子(NPO法人 参画プラネット)
          「女性とNPO活動――新自由主義における「両義性」を超えて」    
        • 堅田香緒里(法政大学)
          「対貧困政策の新自由主義的再編とNPO――再生産領域における「自立支援」の諸相」
        • 渋谷望(日本女子大学)
          「アントレプレナー化する女性とNPO――承認の政治をめぐるせめぎあい」

    14:55~15:10 休憩 質問紙回収
    15:10~15:30 討論者コメント:藤原千沙(法政大学)
    15:30~16:30 質問への応答とフリー・ディスカッション
    16:30~16:40 まとめ:座長 松川誠一(東京学芸大学)
    16:40~16:45 閉会の挨拶:代表幹事 川口章(同志社大学)

    16:45~17:30 総会(会場:和顔館2階 202教室)
    18:00~ 懇親会(22号館地下食堂 ホール3)

    協賛:お茶の水女子大学ジェンダー研究所(IGS)